車内に充満する赤ちゃんの香りにニンマリ
娘と妻が我が家に帰ってくる日がやってきた。自家用車でお迎えだからチャイルドシートも用意して、なかなか緩まないベルトにイラつきながら娘を乗せて30分のドライブ。初めての家族3人のドライブだった。幸いにもおっぱいを飲んだ娘はスヤスヤと寝ている。
もともと運転には自信があったけれど、より一層アクセルとブレーキに神経を集中させる。スヤスヤ眠る娘の微かな寝息と、赤ちゃんのふんわりした匂いが車内に充満する。幸せを感じる瞬間。でも帰宅してベビーベッドに娘を寝せようとしたところで幸せな雰囲気終了!!
産後一発目のお叱り到来
妻曰く、ベビーベッドのマットレスの高さが低すぎるという。たしかに言われてみれば低い。しっかり説明書を読んで組み立てておけばよかったのだが、急な出産で私が単独でIKEAの家具よろしく“チャチャっと”作ってしまったのが失敗のもと。ぜひ夫婦であらかじめシミュレーションをしつつ、組み立てておくことをおすすめしたい。
夫婦間の内紛をよそに間もなくして娘は寝る。というか生きてるの!? と思いたくなるほどの爆睡。まさに「寝る子は育つ」って言葉がしっくりくる。寝顔を見ていると、我が娘ながらまだ人間よりも未知の生物感を醸し出している。人間は類人猿に近いんだなと実感するが、パパは口が裂けてもそのような発言はしないほうがいい。Twitterのサブアカウントで呟くくらいにしておこう。
寝る子は育つで赤ちゃんがスヤスヤはいいのだが、驚くことに妻もいびきをかいて寝始めた。アクティブな性格で休日にゴロゴロしていようものなら掃除機でガツガツ夫を突っつくタイプの妻なのに。娘が起きるまでの3時間もゴロゴロしていた。いろいろ検索していると産後の疲れってのは半端ないものらしい。なんせ母乳を分泌するだけで120分のマラソンと同等の体力消耗だなんてデータもあるくらい。その割に体形が元に戻らないのはなぜ、とか余計なことは言うべきではないという忠告を付け加えておこう。
生まれて初めて女性の股間を拭く瞬間が
数時間して娘が人間のものとは思えない泣き声で呼ぶ。我が家は母乳だから授乳は妻にしかできないので安心していたら声がかかる。
「私トイレいくからオムツ変えといて」
オムツの交換方法を知らない。父親学級のようなものが病院主催であったのだが、なんせその時はスクープ情報が入ってずーっと取材に繰り出していた(おかげで雑誌は売れたんだけどね)。つまりオムツの交換方法なんてもんは知らない。父親学級、普通の会社員の方だったらきっぱり有休を使っていくべし!!
軽く後悔している間にも妻の退院セットから手引書のようなものを見つける。絶妙にわかりにくい図説と文章。QRコードで動画付きのコンテンツにできないのかこれ、とか編集者目線で余計なお世話を連発する。とりあえず「おまた」は“前から後ろ”へ拭くという鉄則はわかった。ウンチの汚れを前につけないためだとか、妙なことに関心するも娘は人智を超えた音域で泣き叫んでいる。ぶっつけ本番で新生児になにかあったらまずいのでシミュレーションが必要だ。手元にあったバズライトイヤーの人形にオムツをつけて練習してみる。今でもバズには頭が上がらない。
練習も終わってマジマジと娘の股間を見るとなかなか神秘的な構造をしている。よっぽどマニアックな趣味がなければ世の中の男性は女性の股間を拭いたことはない。つまりノウハウを持っていない。トイレが終わり相変わらずゴロゴロしている妻に聞く。「ちゃんと開いてガッチリ拭いて」がアドバイス。神さま、なかなか拭きにくい構造にしましたね。練習あるのみ。
お風呂は洗うことだけじゃないってことを知る
もうこのあたりまで読んでもらっているとお分かりと思うが、私は父親適性が非常に低い。わりと器用なタイプで新しい仕事も卒なくこなすタイプだが、いろいろと下準備が必要なのは仕事も育児も同じ。いきなり戦場の最前線に送り込まれてはただオロオロするしかないのだ。妻からの怒号は飛ぶわ、娘はコウモリのような超高周波の泣き声で叫ぶわ、本当に戦場だ。
お風呂という時間も私にとってはビックリの連続。まずガーゼで顔を洗う。耳に水を入れないようにしながら優しく洗う。慣れてくると娘が気持ちいいのかニッコリとする。これは笑っているのではなく筋肉が緩んでいるだけという興ざめの解説をする妻を横目に、ふんわりとしたガーゼと泡で身体を洗う。
赤ちゃんの身体をよく見ると黄色っぽい皮脂がついていて赤ちゃんを乾燥から守っている。人類すごい。気になるけれどこの皮脂はあまりゴシゴシ落とす必要はなく、毎日のお風呂で徐々に取れていくから安心してほしい。お風呂から出たらまた戦場が待っている。なんせ乾燥しやすく、冷めやすい弱さマックスの赤ちゃん。保湿クリームを塗って、意味不明の紐がいっぱいついた服を着せる必要がある。蝶結びの練習をする道具かとツッコミたくなるほど紐がついている。
パパは90%くらいの確率でこの紐を結び間違える。これも事前にバズライトイヤーで練習するしかない。失敗しているうちに赤ちゃんはどんどん冷えてしまうのだ。
新しくパパになる皆さんには洗うだけが「お風呂タイム」ではないことは心してほしい。保湿して着替えをして、暖かい部屋まで連れて帰る一連の流れが「お風呂」。とはいえ、前述したように紐の多すぎる服とか、保湿とか、パパには縁のないトラップが多いのも事実。間違ってもママはパパを責めすぎないようにしてください……。
急に気が短くなるママにドン引きする
産後半年くらいは妻の人格がガラリと変わってしまったのにショックを受けた。とにかく沸点が低い。会社の「瞬間湯沸かし器」の異名を持つA部長と同じくらい、意味のわからないことで急にキレる。ちなみに直近ではA部長からホッチキスを留める角度が気に入らなくてキレられた。
私なりに一生懸命にやっていた育児だが、どうにも気に食わないことがあると「仕事しているのがそんなに偉いのか?」と言われたことも。いや、そんな発言をしたことがないのだけど……。また料理の味付けも妙に味気なく、何の気なしに「ちょっと薄味にしているのね」と言ったが最後。野菜炒め満載のお皿をドーーン!! 壁にぶつかりねっとりと流れ落ちるキャベツ。エリンギ高かったのに。そして数秒後に泣き始める妻。そして夫はドン引き。

とりあえず書物の情報を大事にする私だが、悠長に本を買いにいっている場合じゃない。この時ばかりは病院に電話してみることに。
「あー、それはホルモンバランスの影響ですね。ダンナさんは大変ですけど、少し我慢してあげてください」
産後はホルモンバランスが崩れるからメンタルも過敏になるってのが結論。ちなみにこれも父親学級では教えてくれるところもあるそうなので、どんどん有休を取得して学ぶべし。我が家の場合は産後約半年間はこのような切れ味鋭い妻が滞在していたが、徐々に症状は薄れて元に戻っていきました。
ママは特に赤ちゃんの夜泣きで睡眠不足がずっと続いていることもその症状を加速させる。パパが会社で奮闘している間にもママは戦っているので、不要不急の飲み会はなるべく遠慮して早めに帰宅してあげる配慮も必要だ。世の中のほとんどが不要不急の飲み会だと気付くはず。
とはいえ育児を理由に仕事をキャンセルばかりしていたら出世がなくなることも。仕事をスムーズにするためにも、ママが避難場所として実家にすぐ頼れるよう、両家の関係性を保つのもパパの役割。嫁姑とかしょうもない争いごとをしている場合ではない。厄介ごとだけどパパ頑張れ。
まとめ
なにはともあれ、パパはママには及ばないってことをママは理解すべきだし、パパもそこにあぐらをかいているようではあまりにも情けない。赤ちゃんという大切な命を守り、愛するためにも、パパとママがしっかりと手を取って育児をしたいところ。お互いに足りないものを補えるのが夫婦であって、パパとママだと私は思う。
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